注: この記事はミュージカル『キルバーン』のネタバレを大いに含みます
この記事は前編の続きとなります。観劇の経緯については前編をご覧ください。
迎えた宴の日
翌朝もいつも通り目が覚めた。軽く身支度を済ませ、朝食を取ったのち、念の為カロリーメイトを持って池袋へ向かった。
最寄駅のローソンでチケットの発券を済ませ、チケット名義と受け取った人間の名前違って大丈夫だろうか、と思いつつもチケットを握りしめて池袋行きの電車に乗った。座席番号はやたらと下手寄りであることしかわからなかったが、友人からは「スピーカーが近いと爆音らしいので対策が必要かも」というアドバイスをもらった。ライブ用の耳栓はあいにく自宅に置きっぱなしである。今から見に行くのミュージカルだよな?
ここから会場への道中は何事もなかったので省略する。暇なので電車の中で花言葉を調べてみたり*1、応用情報技術者の試験対策をしたり*2、適当に時間を潰していたくらいだ。
サンシャイン劇場は少々わかりづらい場所にあるものの、サンシャインシティは何度か訪れたこともあり迷子になることもなかった。

サンシャイン劇場のエントランスに着くと、すでに数十人が列を成しており、あともうしばらくしたら入場というタイミングだった。すでに光るリストバンドと思しきものを所持しているものもおり、公演3日目にしてリピーターもそれなりにいることが窺える。この人数なら全員がグッズ販売に並んでもそんなに時間はかからないだろう、と思いのんびり入場を待つことにした。
裏切りのパンフレット
どういう立ち振る舞いでいればいいのかわからず、見よう見まねでチケットを出して入場し、噂に聞いていた光るリストバンドを受け取り「これが持ち帰り可だなんてなんとリッチな」と思いながら*3、ひとまず物販列に並んだ。
物販列もかなりスムーズに進み、パンフレット以外に何か買おうか悩む暇もないまま会計順になり、素直にパンフレットのみを購入した。あとはチケットで席を確認して、パンフレットで予習の追い込みをすれば勝ちである。
勝ちであるはずだった。

この有様である。ネタバレのため開演前に開くなと?これにて詰みである。公式サイトのあらすじとわずかなTRUMPについての記憶、多少予習した花言葉を頼りに、ほとんど丸腰でこの宴に参加することがこの瞬間に確定した。
筆者はミュージカルについてはほどほど馴染みがある。劇団四季は少なく見積もって2桁回程度は見に行っている。ミュージカルとは違うジャンルになるが、演劇も時々観に行くことがあるし、オペラの鑑賞もそこそこ経験がある。
また、類似のジャンルとしてSound Horizonというユニットのコンサートに行くこともある。このユニットのアルバムツアーは「Story Concert」と呼ばれ、バンドの演奏をバックに、音楽ライブとミュージカルを混ぜたような形態で披露される。特に近年はミュージカル色がかなり強く、参加メンバーもミュージカル俳優が多めになっている。
私は1人ではない。たとえ丸腰でも、今まで積み重ねてきたミュージカルとその類似コンテンツの経験があるのだ。生き抜いてみせる。
開演まで暇になった。どうでもいいが、このパンフレット高校時代に使っていたリュックの柄にそっくりだ。そんなことをぼんやり考えつつ、リンドウによる前説を聞きながら、あとはただ時がくるのを待っていた。

キルバーン
ここからは観劇中の感想や考察を書いていく。休憩時間や終演後に大急ぎで書き溜めたメモを元に再現しているが、一部時系列は正確ではない。加えて、おそらくかなり読みにくいものになると思うが、ご容赦願いたい。
開演前
シランとリンドウが実際にステージ上に現れ、直々に公演の注意事項を読み上げる。やや脱線するが、リンドウは公式画像だと猟奇的なお姉様感あるイメージだったが、実際に喋りと姿を見ると全然そんなことはなくおとなしめの可愛らしい少女の印象を受けた。あの写真はなんだったんだ。詐欺だ*4。
それにしても開演前からやけに客席に絡むな、こういうノリなのかTRUMP。ここは結構後ろだから流石にこっちに絡まれることはないと思うけど、と不安になりながら何やら開演前の余興があることが述べられる。
開演前に何かしらコンテンツが披露されるらしいことは知っていたが、こういう感じなのね、ダンサーさんの華麗なる舞に魅了されているうちに、何やらしれっと本編に入ったっぽかった。
あと、このタイミングで気づいたが観客もどうやら共同幻想なるものの一部として舞台の登場人物から我々観客は見えているという設定らしい。第四の壁については様々な形で取り扱うこともあるが、キルバーンではこういう感じで行くらしい。
これ絶対後でも客席に絡みに行くやつだな、と思った。
本編 (前半)
まずはグスタフと呼ばれる人物の歌から始まる。なるほど、昔ニゲラとビンカという人吸血種がいてビンカがニゲラに怪我を負わせたと。
...誰だよ、ニゲラとビンカ。そんな名前あらすじにも登場人物の一覧にもいなかったぞ。まぁ、おおかたこういう初っ端に出てくるキャストのないキャラはおとぎ話か遠い昔の人物で名前だけで存在しているか、あるいは登場人物の誰かの正体がニゲラかビンカであるか、のどちらかだろう。多分後者。
2人ペア、ということでシランとリンドウあたりがそれに該当するのか。もしくはニゲラは大怪我をして亡くなったか未だ回復せず動けない、という事実を踏まえれば歌っているグスタフ自身がビンカの可能性もあるし、あるいは不死卿ドナテルロあたりの可能性もある。この歌の内容が何年間の話か知らないが、というかそもそも吸血種って何年くらい生きるのかも知らない*5のでその辺の感覚もあまり当てにならなさそうだが、多分そんなところだろう。
いろいろあって話が進んでいくのだが、客席にコールアンドレスポンスを要求し始めたり、突然客を立たせてライブを始めたりしてやりたい放題の時間となる。こいつら幻覚をなんだと思っているんだ。勝手に盛り上がるんじゃない、正気か?
ここで昨日の自分の判断の甘さを呪った。
「どうせ明日は祝日1人で暇だし、のんびりミュージカルを見て日頃の疲れをリフレッシュして過ごすのも悪くないかもしれない」と。
こんなはずではなかった。全然のんびりではないしリフレッシュどころではない。ヒャッハーってこういうこと? 曲調もかなりメタルだし。逆にここまでメタルっぽいのに周囲にヘドバンしている者が1人もいなかったこともそれはそれで怖かった。いずれにせよ、のんびり観劇とかではない。
シランとリンドウがギターとベースを弾いてる*6し、だいぶ好き勝手なミュージカルもあったものである。
その後、大柄の女装をした吸血鬼が客席入り口から入場して何かを配りながら客席を練り歩き*7、そのままステージへ。
歌の内容とストーリーはあらすじにあった通りの流れなので、ステージでの動きはわかりやすく、話の流れも結構追えているな、演出がところどころ様子おかしいけど、と思った。
ストーリーについてはここで詳細に記載しないが、要するに繭期という思春期に似た時期があり、情緒不安定や幻覚を引き起こすことがあること、ドナテルロなる不死の吸血種はその繭期の症状を誘発させるCOCOONの密造人でありポピーは表社会の名士であり同時に裏社会ではCOCOONの密売人であるということがわかった。
結局のところ麻薬の密造者と密売人の元締めが密造者の所有する館で取引しているだけである。ろくなもんじゃない。
その後、ポピーの目的がドナテルロに不死を分け与えてもらうことであることであることがわかる。そのために大金を積んだが、ドナテルロ的にはお金より「真実の愛」なるものが欲しいらしく、そのためにソフィという記憶を失った不死の少女がドナテルロに花嫁として差し出されてしまった。
ちょっと突っ込ませてほしい。不死が欲しい、まぁわかる。お金よりも真実の愛が欲しい、まぁ言わんとしてることはわかるけど随分世間知らずというかなんというか、歪なピュアさをそこに感じる。
長らく生きてきて真実の愛という概念を疑わず信じてるドナテルロさん、結構純粋というか世間知らずというか、不死故の拗らせが生じてないのが面白い。他者にあまり興味なさそうだしさてはコイツ引きこもりだな、館から出たことないでしょ。
そして都合よく記憶喪失の不死の少女を連れてくるポピーもなかなかである。裏社会の情報に通じているとはいえ、よくこう都合のいい人材見つけてきたな。表向き議員だし裏では麻薬密売人の元締め、要するにマフィアの偉い人なだけあって、仕事はできる方なんだろうな。ちなみにポピーはソフィに不死にしてもらうことはできないのかな、韻踏めてるし。誰か詳しい人教えてください。
さて、この展開に人身売買がどうのこうのとか倫理がどうのみたいな話をしているが、そしてそれは至極真っ当な指摘ではあるのだけれど、麻薬の取引している人にそんな常識的なことは言われたくない。何より吸血種ってそういう真っ当な倫理観ある社会なんだ。へー。という驚きもある。血盟議会とかいう議会もあるくらいだし、一応社会として色々きちんと成立しているのかもね。知らんけど。
この辺で感じていたことだが、TRUMPシリーズにあまり触れていないと、彼ら吸血種の文化とか価値観とかの機微がわからない。なんとも歯がゆいものである。彼らはどのような社会で、どのような文化を持って生きているのだろうか。あと、何年くらい生きるのだろうか。そろそろ教えて。ポピーの話聞いてると人間とあんまり変わらなさそうだけど。
ここで登場人物それぞれの過去が少しずつ語られるが、繭期の症状のせいで結構悲惨な、というかとち狂った人生になっている。幻覚を見たり、というのはわかるけどそれにしても結構情緒の不安定の方向性が個性的というか、なんか謎の能力みたい、というかなんというか。難しいね繭期って。
いずれにしても、吸血種の総人口とか社会制度とか知らないが、このような状態で社会を維持できているのがびっくりである。結構タフな種族なのかもしれない。
脱線したが、だいたい状況をまとめると、
- ドナテルロは不死の花嫁は歓迎。死ねないから永遠を共にするものが欲しい
- ソフィが本当に不死かどうかは物騒な手段じゃなくて一緒にいるうちに確かめる
- なんか結婚前のカップルみたいなこと言ってるな、と思うなど。動機は全然違うけどさ
- ソフィが本当に不死かどうかは物騒な手段じゃなくて一緒にいるうちに確かめる
- グスタフは花嫁に反対。不死者だと認めたくない、が正確か。なんだ、ドナテルロとその不死生への異常な執着は
- 命を奪えば早いけど、それで死ななかったら困るしジレンマ〜って感じ
- ポピーたちはソフィが不死者であると信じてるし、面倒だから一度死んでもらって証明しようみたいな物騒なこと言ってる
- この辺やってることがマフィアって感じだよね〜
- 用心棒のダリはちょっとよくわからない。用心棒という話だけど重要人物なので絶対に何か別の目的がある
といった感じか。うん、めっちゃわかりやすい。シンプルでいいね。筆者は人間種なので繭期の症状を体験したことがなく、登場人物の皆々様が過去にどうしてそんな行動を取ろうと思ったのかは結構理解に苦しむ点もあったが、そういうものだと思えば、話としては非常にシンプルなのだ。初心者に優しいミュージカルである。
...グスタフっておじいさんなの?ということは見た目と実態が一致していない?
休憩
ひとまず休憩を迎えた。することがないので、一旦ロビーに戻って給水を済ませる。友人*8に途中までの簡単な感想とお礼のLINEを送り、前半の内容を整理して*9後半に臨むことした。
整理して思っていたが、ステージ上の何が幻覚で何が実際に発生した出来事なのかわからなくて怖い。今自分が見ているものはどうなのか、きちんと考えないと置いていかれるかもな、と気持ちを新たにしたところで後半の幕があがる。
本編 (後半戦)
いよいよ物語の核心にせまっていく。後半は結構時系列があやふやなので、思ったことを端から書いていく。
ソフィが真に不死であり、その経緯がわからないこと、ダリの本名と真の目的、などなど*10。
ダリという人物がデリコ家の血筋らしい、と言うことが語れたのだ。どうも名門の血筋らしい。鑑賞中ちょっと引っかかったのだが、ソフィしかりこのミュージカルの登場人物はフルネームが出てくる方が少数のようだ。聞き逃しただけかもしれないが、他のキャラのフルネームがそこまで強調されていた印象はない。ということはこの作品ではフルネームそのものに大きな意味はない。それでもあえて強調してフルネームが出てきたこの2人の名前はシリーズの他の作品にとって重要な意味を持つのかもしれない。彼らは他の作品にも出てきていて、実はもうシリーズに詳しい人は結末も推測がつくのだろうか、と思っていた。
色々とあったが、どうもソフィにはドナテルロが見えていないらしい。グスタフもおじいちゃんって呼ばれてたし、1人だけ見えているものが違うようだ。そしてポピーは不老不死をもらえて満足そう。結構あっさりもらえるのでびっくり。ここに一悶着はないのか。
と思ったら短剣の傷が治らないらしく、不死ではないらしい。さっきドナテルロに刺された時は治ったのに。
謎がどうのこうのと歌っていたが、これだけシンプルなストーリーである。大体の予測はこの時点でついた。ところで繭期幻想読本ってなあに?
- ドナテルロは幻影で、現実に物理的な干渉ができない
- だからポピーは当然不死になれないし、ドナテルロに刺されてもダメージは受けない
- 幻影だから殺すこともできず不死に見える
- グスタフも美少年は見せかけで本当はおじいちゃん
- この状況で幻影を見せられるのがグスタフのはずなので、グスタフに何かカラクリがある
その後ドナテルロとダリによるラップバトルを挟みながら、ドナテルロへの詰問が始まり、ドナテルロが大暴れして全員を殺めようとする。どうせ死なないんでしょ。
と思っていたが結構普通にバタバタ倒れて行ってちょっと驚いた。結構ガチでやばいのかもしれない。なかなかの緊迫シーンである。
幾度目かの脱線になるが、ここで面白いのがダリである。彼は麻薬捜査のために内偵しているわけだが、終始一貫して本件に巻き込まれた誘拐被害者のソフィを気遣っている。捜査とソフィの救助、どちらを優先すべきかというのは難しい問題だが(吸血種社会の倫理観と警察の価値観次第なのでどちらでも良いのだが)、別に殺したって死にはしないのに、ドナテルロ大暴れのシーンでも身を挺して庇ってあげているのが非常に真面目である。明らかにソフィを矢面にした方が生存率上がるだろうに。
結局ソフィ以外は全滅してしまった。言わんこっちゃない。と思ったが、ソフィには本当にドナテルロが見えていないようで、みんなが突然暴れ出して倒れたようにしか見えないらしい。やはりドナテルロは幻影だったようだ。
以下は物語の真相である。
冒頭のニゲラとビンカは、やはり登場人物の中にいて、グスタフがビンカで開かずの間の先で昏睡していたのがニゲラであるらしい。ニゲラとビンカが同年代とするともう結構おじいちゃんだな。
そして、ニゲラの繭期の特性を利用して繭期を誘発、集団幻覚を作り出したのがこの館とドナテルロ/グスタフの正体らしい。まぁそんなもんよな。と思っていたところ、
突然ドナテルロ(ニゲラ)が真実の愛を理解したらしい。
ニゲラとビンカでなんかいい感じになってる。ちょっと待て本当にいいのかそれで。まぁ確かに、どっちもそこそこいけない面はあったし実際問題自分に尽くして面白いことをしてくれてたんだからいいのかもしれないが、本当にそれでいいのか。吸血種の価値観はわからん、繭期のせいで愛情というか感情全体がおかしくなってて大変だなぁ。本人たちがいいならいいのか、と思ってのんびり眺めていたら
(゚∀゚)o彡゜ニゲラ!ビンカ!
ハッピーウェディング!グスタフの衣装が白いのって花嫁衣装だったんだ。花嫁姿似合ってるよ。うわー、ゴンドラ装置までついてるんだ。すごい豪華だ。みんな幸せそうでよかったね〜〜〜
とはならんやろ。ちょっと待て。展開が早すぎる。
- 真実の愛って結婚がゴールなの?愛の形は結婚だけなの?結婚しなきゃダメ?
- シリーズで「結婚」という概念が何か特殊な意味を持っているパターン?
- 勝手に幸せになってるしみんな祝福してるけど
- 己のエゴで人を昏睡状態にした挙げ句、その贖罪と称して社会に薬物を蔓延させたビンカが許されるのは流石にどうなん?
- ポピーはまぁいいよ、裏社会のものだし。他のみんなは本当にそれでよかったのか?
- 特にダリ。あなた警察官なのに泣き落としに弱すぎんか。今まで何人か犯人見逃してたりしないかい?
吸血種の倫理観も常識も文化も社会も何もかもわからない。ニゲラとビンカの結婚を素直に祝福できない私はきっとこの場では異端なのだろう。物分かりの悪い共同幻想でごめん、と思いながらなんとなく拍手をしているうちに舞台は幕を下ろした。
一体私は何を見せられていたのだろうか。
あと、繭期幻想読本とシラン/リンドウのところは本当に理解できなかった。おそらく他作品に関わる部分なのだろうけど、物語と本筋的にはあってもなくてもよさそうな部分なので、きっとわかる人にはわかる、そういった内容なのだろう。
見終わって
雑感
まず、前編でも書いたが素直に面白かった。最後の展開については、個人的にはハッピーだと思いたくないが、物語というのは得てしてそういうものである。
ニゲラとビンカは他人を不幸にすることで当人たちの自己満足な幸福を得た、それが結末でも良いのだ。その結末のあり方をきちんと考えることが、考えるきっかけになることが物語の意義であるとさえ思う。
ストーリー自体はかなりシンプルで、言ってしまえば先の展開が結構予測できるポピュラーなものだが、シリーズもので他作品の背景を知らない人間にとってはこれくらいがちょうどいい。長年のファンにとっては他作品を土台にしたもっと重厚な物語が期待されるかもしれないが、私のような新規層が無理なく入るにはこれくらいの味付けがありがたく感じる。
そして、新規にとってはもう一つ。ノリとテンションだけでついていけるこのはちゃめちゃ具合もかなりありがたい。ゆっくり観劇して優雅な休日を過ごす、という私の目的は叶わなかったが、ライブ感と勢いで頭を使わずに見ることができるのは非常に親切だと感じた。
キルバーン自体は(少なくとも初見にとっては)X (旧Twitter)のタイムラインに阿鼻叫喚を撒き散らすような作品ではない。見ていて非常にしんどい思いになることもないし、その結末に心折れるようなものでもない。これをきっかけに他の作品も見ることはできないだろうか、という気にさせてくれるいい作品だったと思う*11。
音楽についても触れておく。
冒頭と終盤は光るリストバンドの効果もあって、結構バンドのライブという感じもあるものだった。シランとリンドウが突然ギターとベースを持ち出してみたり、マイクもヘッドセットではなくスタンドマイクだったり、何を意図しているのかは不明だが雰囲気づくりへのこだわりを感じる音楽と演出だったように思う。ジャンルも意表をつかれるものもあり、個人的には面白い点だったと思う。あと、事前に友人に「爆音らしい」と聴いていたが、確かに音量は結構大きかった。幸にして結構後列の方だったので耳にダメージが行くほどではなかったが、中央より前だった場合は耳栓を家に置いてきたことを後悔する羽目になっていたと思う。
また、私自身はミュージカル俳優に詳しいわけでもなく、ましてや特定の「推し」がいるわけでもないのだが、こうして見るとどの俳優さんも非常に魅力的な方だな、という印象だった。声や体格、動作などその人の持つ様々な要素が「キャラクター」を型づくるわけであって、キャラクターの魅力を上手に引き出すプロなのだということを実感した次第。
独断と偏見によるキャラクター評
以下は登場人物の幾人かに抱いた勝手な印象です。石を投げないでください。
グスタフ/ビンカ
全ての諸悪の根源。こいつがいなければ薬物(COCOONによる繭期の誘発)が社会問題になることもなかった。もちろん、彼なりに必死だったのだろう。大切な友人を傷つけて生きているのかどうかもわからない状態にしてしまったのだから。
しかし、そのために裏社会で暗躍し薬物を社会に蔓延させて富を築き、その薬物を持って共同幻想を作り上げるという手段に出ることは(我々人間種の社会の価値観では)到底許されることではない。最終的にニゲラと愛に結ばれ、作った薬物で心中するという本人たちにとっては極めて幸せな結末を迎えたが、その代償は本人たちの知らぬところで払われているわけだ。
ちなみに彼は「美少年」であったわけだが、なぜ美少年なのだろうか。文化的教養に疎い私には理解できなかった。勝手な憶測だが、本人の理想の姿を顕現させたものだったのだろうか*12。セリフで説明されていたのだったら覚えていないだけなのでスミマセン。
ドナテルロ/ニゲラ
本人にも色々あるだろうが結構な困ったちゃん。ドナテルロとニゲラはなんかもうほぼ別人格なのだが、ドナテルロは自身の記憶について思うところはなかったのだろうか。そもそもドナテルロは自信をどういう人物だと認識していたのだろうか。
1度みただけではあまり理解できなかった。
ドナテルロの求める「真実の愛」というものから感じられる不自然なピュアさ、彼の言動に見られる世間知らずで大人になれていない部分、とても不老不死で長い年月を生きていたとは思えない要素がそこかしこにある。そもそも生きた年月に応じた価値観や行動の変容、そうしたものそのものにも疎いのかもしれない。彼の歪にも見える人格は、きっと彼の生い立ちそのものを表しているのだろう。
ソフィ/リリー
とってもかわいそう。今作の生き様を聞く限りでは非常にかわいそう、あんまりだ。不老不死にされた挙句、記憶を失って不安なままよくわからないところに連れてこられ、そこではみんながみんな虚空に向かって「不死卿」と丁重に話しかけている様を見せられているわけです。いうなら酒カスの飲み会にうっかり参加した素面の下戸みたいなもので、絶対にめっちゃ怖かったと思う。
そして記憶を取り戻したとて、本人が幸せではなさそうなのがなお辛い。
おそらく記憶を失うに至る経緯や、不死になった経緯の詳細は他の作品で描かれていると思うのでそこについてはわからないまま話してしまっているが、リリーが幸せになる未来は残念ながらあまり見えないように思う。不幸になるためだけに複数の作品でキーパーソンにされる運命にある、そんな印象受けたキャラクターだった。
ポピー
権力のある小物。ちっさい。不老不死になりたいとか、そのためにどこからか不死の女の子見つけてほとんど拉致みたいなことして取引材料にする。行動力と権力、あと実務能力は高いのかもしれないが人として吸血種としてあまりに薄っぺらい。それとも吸血種社会ではあれくらいのしょーもない、思慮のかけらもないような欲望がそこそこしっかりした意味を持つような価値観があったりするのだろうか。
わからん。
あの見た目と言動といい、演じた俳優さんには頭が下がるばかりである。
マルメロ
愉快なおじさん。話は駄々滑り出し、結構な頻度で幻覚に語りかけているし、まともに見えて結構きちゃってるのかもしれない。登場人物たちの中では比較的マシな人生のような気もするが、どうなのだろう。下級貴族としてゾンビみたいに生きる方が命のやり取りで死にかねない方が辛い、みたいな価値観で生きているとしたら、あるいはそういう価値観を吸血鬼社会が内包しているとしたら怖すぎる。
総じて、信念は素敵だが、そのための行動が全く伴っていない印象。なんで裏社会でポピーに使える道を選んだ。どう考えても誰かを笑顔にできる道ではなかろう。
彼は彼で結構生きづらいのかもしれない。
オリーブ
ロックすぎる被害者面女。人生の辛さとしんどさの大半を自身の繭期症状によって引き起こされた、まぁ確かに可哀想といえば可哀想な人。でも自分のせいだよね。
とはいえその後の生き方は、結構筋が通っているように思う。本人なりにきちんと生きようとしているのかもしれない。彼女の繭期症状は価値観の反転だそうだが、館の中でそれがきっかけのトラブルが発生したりすることがなく何よりである。
シラン
口が悪いお嬢様という感じ。なぜかはわからないがそこはかとなく育ちの良さを感じる。武器が結構大雑把な感じなのもいい。
リンドウ
写真詐欺。公式サイトの猟奇的ドSお姉様みたいな写真とは裏腹に、見た目も佇まいも話し方もおとなしい少女そのものである。あのビジュアル入ったなんだったのだろうか。
武器も結構立ち回りと身のこなしが要求されそうなものを利用していた。器用なのかもしれない。
ダリ
情が厚すぎて社会でうまく生きていけないタイプ。ソフィに「静かに」と言った舌の根も乾かぬうちに消音器のない銃で扉の錠を破壊するお茶目さんでもある。あの信じたものに突っ走っていく感じで警察官の仕事が無事にできているのか不安である。あるいは吸血種社会は正義感だけで警察が務まってしまうのか。
自身の血筋に誇りを持ち、ノブレスオブリージュを歌いながら己の信じた正義を全うしようというその姿勢は素晴らしい。おそらくキルバーンの作中ではトップクラスの善人だ。
しかしだ。ソフィを助けようという意思はいい。そのためにできることは果たしてソフィの手を引いて走り回るだけだっただろうか。結果何もなし得ていないし。
もう少し器用に立ち回れれば、とても凄い人なのに、と思うなど。とても重要人物だけど、いまいち役割が重要になれない、そんな印象。でも好きだよ、そういうの。
最後に
というわけで、TRUMPを知らない人間種がキルバーンに参加した思い出をつらつらと書いてみた。本当はもう少し早く仕上げたかったが、仕事が忙しかったり、合間に応用情報技術者の試験もあったりであまり筆が進まず、観劇から一ヶ月ほど経っての執筆となってしまった。もうすでに当日の記憶もやや怪しくなっている部分もあり、メモをもとに想像で補いながら書いた部分も多数ある。誤りがある箇所についてはご容赦願えれば幸いである。
本当は、人物評の次に「共同幻想とキルバーン」という形で、吉本隆明の"共同幻想論"を下敷きにしながら思うところを書いていた章があったのだが、この記事の公開にあたり全てカットした。
理由の一つには、書いているうちにブログの文字数が2万字を超えて流石に長すぎると感じたことがある。そしてもう一つはいくらなんでもTRUMPを知らないものがここまで踏み込んだ内容を書くべきではないだろう、と思ったことがある。必要な前提を欠いた状態で考察の真似事をしてみても、それはただ空虚な営みに過ぎないのだ。
したがって、キルバーンを見た私の感想はこれで終わりである。まさかこんなところまで律儀に読む者がそこまで大勢いるとも思えないが、もし読んでくれた方がいたらここから感謝を申し上げたい。
読みづらい部分も多々あったと思いますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
また、いろいろ事情があったにせよ面白い体験のきっかけをくれた、公演当時シアトルにいた大切な友人へ、心からの感謝を*13。
おまけ
吸血種のとんでもない宴から人間社会に復帰するにあたってのあれこれ

ポケモンZAの発売も間近に迫ってきました。発売したらミアレシティに住み着くことになっていたので、それまでにこの記事が書き上がっていなかったら、そのまま永久に完成しなかった可能性があります。

そういえば吸血種の人たちってどういう食生活送っているんだろうか。開演前に「飲食は不死卿の教えに」反するみたいなこと言っていたけど、あれも結局何か意味があるのか言ってるだけなのかよくわからなかったという印象。

*1:だいたい花が名前になっている場合は花言葉も合わせてモチーフにしている、という偏見がある
*2:本来はこのブログはもう半月くらい早く出す予定だったのだが、試験対策を言い訳に執筆が全く進まず、雑なメモを整理するにとどまっていた
*3:全くの別界隈の話になるが、そちらでも演出のため観客全員に主催者制御の光るリストバンドが配られる。しかし、そのリストバンドは終演後出口で回収される。レンタル品なのだろう。
*4:とは言いつつ個人的には実物の方の印象が好みである
*5:TRUMPの存在とあらすじの情報から不老不死ではないことだけは知っている
*6:多分実際には弾いてないんだろうけど
*7:これもなかなかな演出だが驚き慣れたのか雰囲気に麻痺してきたのか普通に受け入れてしまった
*8:帰国日時を間違え、この公演のチケットを私に譲った例の友人。前編参照
*9:ここで本ブログの元になったメモを作成している
*10:この辺で気づいたが、ダリ役の人、CHEMISTRYの人ですね。名前が特徴的なのに気づいてなかった。"The Way We Are"とか"fo(u)r"とか好きです
*11:他の作品にいった先で心折られる可能性は一定程度の危惧をしている。どうしたものか
*12:ロマサガ3の四魔貴族みたいだねって思いながら書いてます
*13:16時間の時差にも関わらず、チケットを譲ってくれた友人は当時も私の話を聞いたりサポートをしてくれたり、大変力になってくれた

